
BtoBサービスサイトのためのライティングメソッド1『せっかく書いた文章が人に伝わらない理由』
ferret Oneクリエイターズでライターを務めている鈴木と申します。
この連載『BtoBサービスサイトのためのライティングメソッド』では、BtoB事業を営む企業の皆様が、効果的なWebマーケティングを内製化できるようになるための文章作成法をお届けします。
私がこれまで広告事業やコンテンツライティングに携わってきた経験をもとに、
BtoBサービスサイトでの効果的な文章の書き方
- 企業が陥りがちなNG例
- そもそも文章の良し悪しは何で決まるのか
などをお伝えしていきます。
連載は全5回を予定しています。
第1回では、「Web」や「BtoB」といった内容に入る前に、文章作成の基本に立ち戻り、"せっかく書いた文章が人に伝わらない理由"をお伝えします。
「自分は文章が普通に書けているから、この第1回は読む必要が無さそうだ」と感じるかもしれません。
しかし、そんな皆さんにこそ読んでいただきたい内容です。
文章は「書いた」だけでは人に伝わらない
確かに、誰もが義務教育の過程で日本語の文章の作成方法を履修しています。
日々の業務の中でも、概ねは問題なく社内外でテキストコミュニケーションがとれていることでしょう。
とはいえ、「部下が指示通りに動いてくれなかった」「通達した内容をクライアントが勘違いしていた」といった経験はありませんか?
それは、メールやチャットなどでせっかく書いた文章が相手に伝わらなかったせいかもしれません。
文章を人に伝えるための重要なポイント、それは「目的」です。
- その文章で果たしたい目的を明確化する
- 目的を果たせるように文章をブラッシュアップする
この2つが、テキストコミュニケーションの成功を大きく左右します。
一見すると非常にシンプルで当たり前のようですが、私はライターとして「世の中に溢れているほとんどの文章は、目的が意識されていない」と感じます。
順を追って解説します。
日常で見かける「目的が果たせない文章」の典型例
先日、某ホテルの屋外スペースの一角に、こんな張り紙を見つけました。
"この場所での喫煙はご遠慮くださいますようお願い申し上げます"

※生成AIによるイメージ画像です。
足元を見ると、タバコの吸い殻がいくつも散乱しています。
ホテルの悲痛も虚しく、この場所で喫煙する人が後を絶たないことを物語っていました。
残念ながら「この張り紙じゃあ喫煙者はいなくならないだろうな」と、ライターの私は思わざるをえません。
もしも皆さんがこのホテルの担当者だったら、張り紙にどんな文章を掲載しますか?
この例を、「目的」に着目して紐解いていきます。
文章は、人に「読ませる」ためのものではない
せっかく書いた文章が人に伝わらない理由、それは多くの場合、その文章の目的が「読ませること」になっているからであると、私は考えます。
確かに、文章が人に読ませるためのものであることは(厳密に言えば)間違っていません。
しかし、本来の目的は「文章によって相手に行動してもらうこと」であるはずです。
文章において「読ませること」は「手段であって目的ではない」のです。
これを履き違えないことが、文章作成では非常に重要です。
文章が「読ませる」に留まり、「目的を果たす」までにブラッシュアップされていない。
これが、せっかく書いた文章が人に伝わらない理由の真髄です。
書いたとおりに相手が読んでくれるとは限らない
もうひとつ、文章作成において多くの人が陥る思い込みが、「書いたとおりに相手が読んでくれる」ということです。
我々日本人が何気なく使っている日本語は、実は世界的に見ても非常に複雑な言語です。
テキストコミュニケーションは、
- 人によって解釈が分かれる
- 意味を読み間違える
- 難しい漢字が使われていて読めない
- 文字量が多くて最後まで読んでもらえない
などの弊害と常に隣り合わせです。
むしろ「人はそう簡単に文章を読んでくれない」のが大前提なのです。
文章が仕上がったら、それで終わりではなく、「自分が果たしたい目的を本当にこの文章が果たせるのか」を疑うことが大切です。
目的を果たすための文章のブラッシュアップ法
それでは、先ほどのホテルの張り紙をもとに、
- その文章で果たしたい目的を明確化する
- 目的を果たせるように文章をブラッシュアップする
を実践してみましょう。

この文章から、ホテルが果たしたい目的は「この場所での喫煙をやめてもらう」ことだとわかります。
ブラッシュアップの正解は、ひとつではありません。
担当者の意向によって、結果は何通りにも考えられます。
しかし、私がこれまでのライターとしての経験をもとに、あえてひとつだけ正解を導き出すなら、このようにします。
"禁煙 No Smoking"

「え? それだけ?」
「こんなの文章じゃない!」と驚かれたかもしれません。
確かに、文章というより単語といったほうが良いほどに削ぎ落としました。
しかし、「この場所での喫煙をやめてもらう」という目的においては、これだけの情報で充分だと私は考えます。
もちろん、場所がホテルですから、できるだけ丁寧な文言で張り紙を掲示したいという意向もあるのでしょう。
ただし、元の文章は29文字で構成されています。
これだけの文字情報を、通りすがりの来訪者に正しく読解させるのは、簡単なようで実はとても難しいのです。
多くの来訪者は「張り紙に何か書いてあるな」くらいの認識しか持ってくれないでしょう。
丁寧さを重視するあまり結果的に何も伝わらないのでは、本末転倒です。
また、近年では「ご遠慮ください」を「禁止」ではなく「少しだけなら許される」と解釈する人が増えているようです。
読む人によって解釈が分かれる表現は避け、直接的に記載した方が良いでしょう。
もちろん、外国人への配慮として英文の併記も忘れてはいけません。
文章のブラッシュアップこそ「目的を果たす」ための近道
今回は、文章のブラッシュアップの結果がわかりやすい極端な例を取り上げました。
ただ削ぎ落とせば良いというわけではなく、誰に伝えたいのか、どこに掲載するのか、などによって、相応しい文章の形は変わってきます。
それについては、連載の次回以降に解説しましょう。
今回、私が自信を持ってお伝えしたかったのは、
- その文章で果たしたい目的を明確化する
- 目的を果たせるように文章をブラッシュアップする
この2つを実践することで、文章によって相手が行動してくれる精度は確実にアップするということです。
ブラッシュアップ案がひとつに絞れない場合は、実際に複数の案を使って「どの文章によって相手が行動してくれたか」を比較して効果検証してみると良いでしょう。
これまで自分の文章が「読ませる」に留まっていたのが「目的を果たす」までに到達したことを実感していただければ幸いです。



